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大阪地方裁判所 平成6年(行ウ)97号 判決

大阪市淀川区東三国一丁目四番一号

原告

日生商事株式会社

右代表者代表取締役

平田元塾

大阪市淀川区木川東二丁目三番一号

被告

東淀川税務署長 笹倉達也

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

長尾立子

右両名指定代理人

山崎敬二

桑名義信

高橋孝志

坂田和規

主文

一  原告の被告東淀川税務署長に対する本件訴えのうち、原告が同被告に対して平成四年一一月一七日付けでした原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで及び平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの各事業年度の法人税並びに平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで及び平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの各課税期間の消費税に係る各修正申告の無効確認を求める訴えをいずれも却下する。

二  原告の被告東淀川税務署長に対するその余の請求及び被告国に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告東淀川税務署長に対して平成四年一一月一七日付けでした原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで及び平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの各事業年度の法人税に係る各修正申告は無効であることを確認する。

二  原告が被告東淀川税務署長に対して平成四年一一月一七日付けでした原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで及び平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの各課税期間の消費税に係る各修正申告は無効であることを確認する。

三  被告東淀川税務署長が原告に対して平成四年一一月三〇日付けでした原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで及び平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの各事業年度の法人税に係る各過少申告加算税賦課決定を取り消す。

四  被告東淀川税務署長が原告に対して平成四年一一月三〇日付けでした原告の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの課税期間の消費税に係る過少申告加算税賦課決定を取り消す。

五  被告国は、原告に対し、金四四七万七〇〇〇円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

六  被告国は、原告に対し、金一五〇万円及びこれに対する平成七年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が東淀川税務署所部職員である真鍋義博係官(以下「真鍋係官」という。)の強制的で誤った指導により、〈1〉販売用建物の修繕費が土地の譲渡等に要した経費に該当するか否か、〈2〉借地承諾料が損金に該当するか否か、〈3〉短期所有に係る土地の譲渡利益金額と超短期所有に係る土地の譲渡利益金額を損益通算することができるか否かについて錯誤に陥り、右錯誤に基づき平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで及び平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの各事業年度(以下「平成二年三月期」「平成三年三月期」といい、これらの事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税並びに平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで及び平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの各課税期間(以下「平成二年三月期」「平成三年三月期」といい、これらの課税期間を併せて「本件各課税期間」という。)の消費税に係る各修正申告(以下「本件各修正申告」という。)を行ったとして、被告東淀川税務署長に対し、本件各修正申告の無効確認並びに同被告が平成四年一一月三〇日に行った原告の本件各事業年度の法人税及び平成三年三月期の消費税に係る各過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)の取消しを求めるとともに、係官の違法な右指導により損害を被ったとして、国家賠償請求権に基づき、被告国に対し、本件各修正申告により新たに納付すべき法人税三九三万七五〇〇円、本件各賦課決定により納付すべき過少申告加算税五三万九五〇〇円合計四四七万七〇〇〇円及びこれに対する右納付があった日の翌日である平成四年一二月八日から支払済みまで国税通則法五八条に基づく年七・五パーセントの割合による還付加算金並びに慰謝料一五〇万円及びこれに対する訴え変更申立書送達の日の翌日である平成七年一二月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  当事者について

原告は、不動産の売買、仲介等を目的とする株式会社である。

2  課税の経緯について

(一) 平成二年三月期の法人税について

(1) 原告は、平成二年五月三〇日、平成二年三月期の法人税について、別表一記載のとおり、所得金額マイナス一三八一万六〇〇八円、土地譲渡利益金額〇円、法人税額〇円とする確定申告をした。

(2) 原告は、平成四年一一月一七日、平成二年三月期の法人税について、別表一記載のとおり、所得金額マイナス一七八一万六〇〇八円、土地譲渡利益八一一万九〇〇〇円、法人税額二四三万五七〇〇円とする修正申告をした。

(3) 被告東淀川税務署長は、平成四年一一月三〇日、平成二年三月期の法人税について、過少申告加算税二四万二〇〇〇円の賦課決定をした。

(二) 平成三年三月期の法人税について

(1) 原告は、平成三年五月二九日、平成三年三月期の法人税について、別表一記載のとおり、所得金額〇円、土地譲渡利益金額〇円、法人税額〇円とする確定申告をした。

(2) 原告は、平成四年一一月一七日、平成三年三月期の法人税について、別表一記載のとおり、所得金額二四万六六三三円、土地譲渡利益一〇四〇万七〇〇〇円、法人税額二一五万〇二八〇円とする修正申告をした。

(3) 被告東淀川税務署長は、平成四年一一月三〇日、平成二年三月期の法人税について、過少申告加算税二九万七五〇〇円の賦課決定をした。

(三) 平成二年三月期の消費税について

(1) 原告は、平成二年六月一二日、平成二年三月期の消費税について、別表一記載のとおり、課税標準額六二一万九〇〇〇円、消費税額三七万三〇〇〇円とする確定申告をした。

(2) 原告は、平成四年一一月一七日、平成二年三月期の消費税について、別表一記載のとおり、課税標準額七四六七万九〇〇〇円、消費税額四四万八〇〇〇円とする修正申告をした。

(四) 平成三年三月期の消費税について

(1) 原告は、平成三年五月一〇日、平成三年三月期の消費税について、別表一記載のとおり、課税標準額八八九二万九〇〇〇円、消費税額五三万三五〇〇円とする確定申告をした。

(2) 原告は、平成四年一一月一七日、平成三年三月期の消費税について、別表一記載のとおり、課税標準額一二三三万二五〇〇円、消費税額七三万九九〇〇円とする修正申告をした。

(3) 被告東淀川税務署長は、平成四年一一月三〇日、平成三年三月期の消費税について、過少申告加算税二万円の賦課決定をした。

3  原告の税金納付について

原告は、平成四年一二月七日、本件各修正申告により新たに納付すべき法人税三九三万七五〇〇円、本件各賦課決定により納付すべき過少申告加算税五三万九五〇〇円合計四四七万七〇〇〇円を納付した。

4  不服審査の経緯について

(一) 原告は、被告東淀川税務署長に対し、平成五年一月一三日、別表二記載のとおり、本件各賦課決定につき異議申立てをしたが、同被告は、同年四月一二日付けで異議棄却決定をした。

(二) 原告は、国税不服審判所長に対し、平成五年五月一一日、別表二記載のとおり、右異議棄却決定を不服として審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成六年一〇月五日付けで審査請求棄却裁決をした。

二  争点

1  本件各修正申告の無効確認を求める訴えの適否

(一) 原告の主張

原告は、真鍋係官の欺罔と強迫により、その作成した下書きどおり指示されるままに本件各修正申告を行ったものであるから、本件各修正申告は、行政事件訴訟法三条四項にいう処分に該当する。

(二) 被告らの主張

本件各修正申告は、私人の行為であり、行政事件訴訟法三条四項にいう処分には該当しないから、本件各修正申告の無効確認を求める訴えは、不適法として却下すべきである。

2  本件各修正申告の効力及びこれを前提とする本件各賦課決定の違法の有無

(一) 原告の主張

本件各修正申告には、次のとおりの過誤があるところ、原告は、真鍋係官の強迫的言辞を用いた慫慂によって錯誤に陥り、本件各修正申告をしたもので、右錯誤は客観的に明白かつ重大であるから、本件各修正申告はいずれも無効であって、これを前提とする本件各賦課決定も違法な処分として取り消されるべきである。

(1) 原告の販売用資産である摂津市鳥飼和道及び箕面市半町の各建物(以下「本件各建物」という。)について行われた改修工事費用(以下「本件修繕費」という。)は、租税特別措置法(平成三年法第一六号による改正前のもの)六三条二項、六三条の二第二項に基づく土地譲渡益重課税の計算に際して土地譲渡対価から控除されるべき経費に該当するにもかかわらず、本件各事業年度の法人税に係る修正申告においては、本件各建物の取得価額に計上されていて、右経費とはされていない。また、本件修繕費が本件各建物の取得価額に加算された結果、本件各課税期間の消費税に係る修正申告においては、課税売上高が右加算分だけ不当に高額となっている。

(2) 平成三年三月期の法人税に係る修正申告においては、所得計算に際して損金に算入されるべき大阪市淀川区の借地に係る承諾料(以下「本件借地承諾料」という。)が損金に算入されていない。

(3) 租税特別措置法(平成三年法第一六号による改正前のもの)六三条二項、六三条の二第二項に基づく土地譲渡益重課税の計算に際しては、土地の譲渡等により生じた利益の額と土地の譲渡等により生じた損失の額とを通算すべきであるにもかかわらず、平成三年三月期の法人税に係る修正申告においては、右損益通算が行われていない。

(二) 被告らの主張

本件各修正申告には、次のとおり何ら過誤はなく、真鍋係官が原告を欺罔ないし強迫したこともないから、本件各修正申告が客観的に明白かつ重大な錯誤に基づくものとして無効であるとは到底いえず、これを前提とする本件各賦課決定も適法である。

(1) 本件修繕費は、本件各建物を商品として一般顧客に販売するために支出されたのであるから、本件建物を販売の用に供するために直接要した費用としてその取得価額に該当するというべきであって(法人税法施行令三二条一項一号ロ参照)、土地譲渡益重課税の計算に際して土地譲渡対価から控除されるべき経費には当たらない。したがって、本件修繕費を本件各建物の取得価額に計上した本件各修正申告には、何ら過誤はない。

(2) 本件借地承諾料は、借地契約に当たり支出した手数料その他の費用として借地権の取得価額に該当するから(法人税基本通達七-三-八(3)参照)、所得計算に際し、これを損金に算入することはできない。したがって、本件借地承諾料を損金に算入しなかった平成三年三月期の法人税に係る修正申告には、何ら過誤はない。

(3) 土地譲渡益重課税の計算に際し、短期所有に係る土地の譲渡利益金額と超短期所有に係る土地の譲渡利益金額を損益通算することはできないから(租税特別措置法関係通達六三の二(1)-二参照)、両者の損益通算を行わなかった平成三年三月期の法人税に係る修正申告には、何ら過誤はない。

3  真鍋係官の欺罔ないし強迫の存否

(一) 原告の主張

原告は、真鍋係官の強迫的言辞を用いた違法な慫慂により本件各修正申告を余儀なくされ、本件各修正申告により新たに納付すべき法人税三九三万七五〇〇円、過少申告加算税五三万九五〇〇円合計四四七万七〇〇〇円相当額の損害及び慰謝料一五〇万円相当の精神的損害を被ったのであるから、被告国は、これを賠償すべき義務を負う。

(二) 被告らの主張

真鍋係官が原告に対して強迫的な言辞を用いたことはなく、本件修正申告の慫慂に何ら違法な点はないから、原告の国家賠償請求は理由がない。

第三争点に対する判断

一  本件各修正申告の無効確認を求める訴えの適否について

法人税及び消費税法の修正申告は、公法上の行為ではあるものの、私人の行為にすぎないから、行政事件訴訟法三条二項、四項にいう行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為には該当しない。

したがって、本件各修正申告の無効確認を求める訴えは、不適法であり、却下を免れない。

二  本件各修正申告の効力及びこれを前提とする本件各賦課決定の違法の有無について

1  当事者間に争いのない事実に、証拠(甲三及び四の各一、二、五、六の一ないし三、七ないし一二、乙一及び二の各一、二、三ないし五)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、不動産の売買、仲介等を目的とする株式会社であるところ、別表三記載のとおり、平成二年三月期には、摂津市鳥飼和道、尼崎市南武庫荘及び神戸市垂水区霞ケ丘の各土地を、平成三年三月期には、箕面市半町、大東市南津の辺町、尼崎市西本町、池田市姫室町、豊中市東泉ケ丘及び福井県小浜市遠敷の各土地をそれぞれ譲渡した。これら各土地の取得及び譲渡の年月日は、別表三の〈1〉及び〈2〉欄記載のとおりであって、このうち、箕面市半町の土地の譲渡は、租税特別措置法(平成三年法第一六号による改正前のもの)六三条の二所定の超短期所有に係る土地の譲渡に、その余の土地の譲渡は、同法六三条所定の短期所有に係る土地の譲渡にそれぞれ該当する。また、右各土地のうち、摂津市鳥飼和道及び箕面市半町の各土地は、本件各建物と一括して取得された上、一括して顧客に販売された。なお、原告は、本件各建物を商品として販売するため、別表四の〈5〉欄記載のとおり、本件各建物にそれぞれ一〇〇〇万円以上の費用を投じて改修工事を施した。

(二) 原告は、別表一の(1)欄記載のとおり、本件各事業年度の法人税及び本件各課税期間の消費税についてそれぞれ確定申告(以下「本件各確定申告」という。)をした。その際、原告は、租税特別措置法(平成三年法第一六号による改正前のもの)六三条、六三条の二に基づく土地譲渡益重課税の計算に関して同法施行令三八条の四第八項所定の実額配賦法を選択し、本件修繕費を土地の譲渡等に要した費用に該当するものとして控除した上、土地譲渡利益金額を算出した。また、原告は、平成三年三月期の法人税に係る確定申告においては、土地譲渡益重課税の計算に当たり、超短期所有に係る土地の譲渡に該当する箕面市半町の土地譲渡と短期所有に係る土地の譲渡に該当するその余の土地の譲渡についてその利益金額を損益通算をし、さらに、大阪市淀川区五-一五-三〇の土地につき借地契約を締結するために支出した本件借地承諾料を損金に算入して所得金額を算出した。

(三) 真鍋係官は、被告東淀川税務署長から、原告の法人税の調査を命じられ、平成四年一〇月一二日、原告の事務所を訪問した。その際、真鍋係官は、提示された帳簿書類等を検討し、本件各確定申告には、〈1〉本件各建物の取得価額に該当する本件修繕費が誤って土地の譲渡等に要した費用に計上されている、〈2〉超短期所有に係る土地の譲渡に該当する箕面市半町の土地譲渡の利益が誤って短期所有に係る土地の譲渡利益と損益通算されている、〈3〉土地の譲渡対価から控除する間接経費や負債利子の実額配賦の計算方法に誤りがある、〈4〉所得の算出に当たり、損金に該当しない本件借地承諾料が誤って損金に算入されている等の問題点があり、そのため、過少に法人税額を申告していると判断するに至った。そこで、真鍋係官は、原告代表者に対し、予め用意していた「法人税の申告の手引」のコピーを示しながら、これら問題点を指摘して修正申告を行うよう勧めたが、原告代表者において右説明内容を十分に理解していないように見受けられたため、右調査結果に基づき計算資料を作成した上、改めて臨場することを約して帰署した。

(四) 真鍋係官は、平成四年一〇月一九日、右調査結果に基づいて法人税額等を計算した資料(甲一一)を持参し、原告の事務所を訪問した。真鍋係官は、原告代表者に対し、右資料(甲一一)を示しながら、改めて本件各確定申告の問題点について説明した上、本件各建物と一括販売された摂津市鳥飼和道及び箕面市半町の各土地については、本件修繕費が本件各建物の取得価額に算入されるのに伴い、本件各建物の譲渡対価を増額修正すれば右各土地の譲渡対価を減額修正することが可能であり、これによって消費税額が増加するものの、新たに納付すべき税額は全体として低額となる旨助言した。これに対し、原告代表者は、本件各確定申告の誤りをにわかに納得することはできない旨述べたことから、真鍋係官は、右資料(甲一一)をよく検討した上で連絡するよう求め、帰署した。

(五) 原告代表者は、平成四年一〇月三〇日、東淀川税務署を訪問し、真鍋係官から、改めて本件各確定申告の問題点と右資料(甲一一)に記載された計算内容について説明を受けた。その際、原告代表者は、修正申告を行うかどうか検討したいので一週間更正を待って欲しい旨述べて退出したが、同年一一月五日、再度東淀川税務署を訪れ、更正するよう求めた。これに対し、真鍋係官は、再検討を促したものの、原告代表者の態度が頑なであったことから、同月一三日に原告の事務所に臨場し、更正の準備として再度帳簿書類等を調査することを約した。

(六) 真鍋係官は、平成四年一一月一三日、右調査のために原告の事務所を訪れた。その際、真鍋係官は、再度本件各確定申告の問題点と右資料(甲一一)に記載された計算内容について説明した上、更正の場合には、概算法によって土地譲渡益重課税を計算することになるので、修正申告した方が、新たに納付すべき税額が低額となることが見込まれる旨助言し、修正申告するよう勧めた。これに対し、原告代表者は、暫く検討した後、修正申告したい旨申し出、真鍋係官に対して修正申告書の代筆記入を依頼した。そこで、真鍋係官は、右資料(甲一一)に基づき本件各事業年度の法人税及び本件各課税期間の消費税に係る各修正申告書の作成を準備した。

(七) 原告代表者は、平成四年一一月一七日、東淀川税務署を訪問し、真鍋係官から、右各修正申告書の記載内容について説明を受けた上、これに署名押印し、本件各修正申告をした。

以上の事実が認められる。

2  そこで、まず最初に、本件各修正申告の過誤の有無について検討する。

(一) 原告は、〈1〉土地譲渡益重課税の計算に際して経費として控除されるべき本件修繕費が経費に計上されていない、〈2〉本件借地承諾料が損金に算入されていない、〈3〉土地譲渡益重課税の計算に際して土地の譲渡等により生じた利益と土地の譲渡等により生じた損失とが通算されていないという点をもって、本件各修正申告の過誤である旨主張する。

(二) しかしながら、まず、〈1〉の点については、法人税法施行令三二条一項一号ロによると、たな卸資産を消費し又は販売の用に供するために直接要した費用の額は、当該たな卸資産の取得価額に該当するとされているところ、前記1(一)で認定した事実によると、原告は、本件各建物を商品として販売するため、一〇〇〇万円以上の費用をかけて改修工事を施した上、これを販売したことが認められるから、本件修繕費は、たな卸資産を販売の用に供するために直接要した費用として本件各建物の取得価額に該当し、土地譲渡益重課税の計算に際して土地譲渡対価から控除されるべき経費には当たらないというべきである。

そうすると、本件修繕費が本件各建物の取得価額に算入されていて、土地の譲渡等に要した費用に計上されていないことをもって本件各修正申告の過誤であるということは到底できず、この点に関する原告の主張は採用の限りではない。

(三) 次に、〈2〉の点については、借地契約に当たり支出した手数料その他の費用は、借地権の取得価額に該当し、所得の計算上損金の額に算入されるべき金額には該当しないと解されるところ(法人税基本通達七-三-八(3)参照)、前記1(二)認定の事実によると、原告は、大阪市淀川区五-一五-三〇の土地につき借地契約を締結するに際し、本件借地承諾料を支出したものと認められるから、本件借地承諾料が借地権の取得価額に該当することは明らかであるというべきである。

そうすると、本件借地承諾料が損金の額に算入されていないことをもって本件各修正申告の過誤であるということは到底できず、この点に関する原告の主張も採用することができない。

(四) さらに、〈3〉の点について検討すると、租税特別措置法(平成三年法第一六号による改正前のもの)六三条の二第一項が超短期所有に係る土地の譲渡等については、同法六三条の規定にかかわらず、超短期所有に係る土地の譲渡等に係る譲渡利益金額に対して重課する旨規定していることに照らし、超短期所有に係る土地の譲渡利益金額と短期所有に係る土地の譲渡利益金額を損益通算することは許されないと解するのが相当である(租税特別措置法関係通達六三の二(1)-二参照)。そして、前記1(一)及び(二)で認定した事実によると、原告が他の短期所有に係る土地の譲渡利益金額と損益通算すべきであると主張する箕面市半町の土地の譲渡は、超短期所有に係る土地の譲渡に該当することが認められるから、これらの譲渡利益金額を損益通算することは許されないというべきである。

そうすると、右土地の譲渡利益金額が他の土地の譲渡利益金額と損益通算されていないことをもって、本件各修正申告の過誤であるということは到底できず、この点に関する原告の主張も採用することができない。

3  そこで、次に、本件各修正申告が真鍋係官の強迫ないし錯誤により無効となるか否かについて判断する。

(一) 法人税及び消費税については、申告納税制度が採用され(法人税法七四条、消費税法四五条)、申告書記載事項の過誤の是正に関して特別の規定が設けられているところ(国税通則法一九条、二三条、法人税法八二条、消費税法五六条)、かかる特別の規定が設けられた趣旨は、法人税及び消費税の課税標準等の決定については最もその間の事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限る建前とすることが、租税債務を可及的速やかに確定させるべき国家財政上の要請に応じるものであり、納税義務者に対しても過当な不利益を強いるおそれがないと認められたことにあるものと解される。

そうすると、確定申告書ないし修正申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、右法定の方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限られるというべきである(最高裁昭和三九年一〇月二二日第一小法廷判決・民集一八巻八号一七六二頁参照)。

二  ところで、原告は、真鍋係官の強迫的言辞を用いた慫慂によって錯誤に陥り、前記2〈1〉ないし〈3〉の過誤のある本件各修正申告をしたもので、右錯誤は客観的に明白かつ重大であるから、本件各修正申告は無効である旨主張する。

しかしながら、本件各修正申告に至る経緯は、前記1一ないし七で認定したとおりであって、真鍋係官の原告に対する本件各修正申告の慫慂が強迫に及んだと目すべき事情は見当たらないし、また、原告指摘の諸点が過誤といえないことは前記2で認定説示したとおりであるから、本件各修正申告が錯誤に由来するものともいい難い。

そうすると、本件各修正申告が強迫ないし客観的に明白かつ重大な錯誤に基づくものとして無効であるとは認められず、本件各修正申告を前提とする本件各賦課決定にも何ら違法な点は存しない。

三  結論

以上によると、本件各賦課決定の取消請求は理由がなく、真鍋係官の違法な修正申告の慫慂を理由とする原告の国家賠償請求も理由がない。

(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官 福井章代 裁判官 出口尚子)

別表一

課税の経緯について

〈省略〉

別表二

課税の経緯(法人税)

〈省略〉

課税の経緯(法人税)

〈省略〉

課税の経緯(消費税)

〈省略〉

別表三

土地重課税に係る課税の経緯

〈省略〉

土地重課税に係る課税の経緯

〈省略〉

土地重課税に係る課税の経緯

〈省略〉

別表四

土地建物一括譲渡に係る譲渡対価明細書

〈省略〉

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